高断熱住宅の光熱費、新潟の冬で本当に下がるのか。実測値を並べてみた

新潟で家づくりの打ち合わせをしていると、必ず一度は止まる場所があります。
断熱のグレードをどこまで上げるか、という話です。

はじめまして、新潟市西区で住宅ライターをしている山際ちひろと申します。
県内の建材商社でサッシと断熱材を10年売り、そのあと工務店の広報として5年ほど竣工した家の取材をしていました。

打ち合わせで断熱の話になると、住宅会社さんが光熱費のシミュレーションを出してきます。
年間で何万円お得です、という例のあれです。
あの資料を見るたび、私は少し落ち着かない気持ちになります。
前提条件がどこにも書かれていないことが多いからです。

この記事では営業資料の試算ではなく、新潟で実際に暮らしている家の検針票の数字を並べます。
結論を先に言えば、下がります。
ただし期待している金額とは少しズレるかもしれません。

新潟の冬は「寒い」より「日が差さない」が効いてくる

まず前提として、新潟の冬がどういう冬なのかを数字で押さえておきます。
気象庁が公表している新潟地点の平年値(統計期間1991〜2020年)は次のとおりです。

日平均気温日最低気温日照時間降雪の深さ合計
12月5.3℃2.4℃62.9時間19cm
1月2.5℃0.1℃56.4時間63cm
2月3.1℃-0.1℃74.3時間48cm
3月6.2℃2.4℃136.8時間8cm
13.9℃10.5℃1,639.6時間139cm

気温そのものは、北海道や東北の内陸に比べれば穏やかです。
1月の日平均でも2.5℃ですから、氷点下が続くわけではありません。

私が毎回引っかかるのは日照時間のほうです。
1月の日照はわずか56.4時間で、年間1,639.6時間の3.4%しかありません。
1日あたりに直すと2時間を切ります。

これが家づくりに効いてきます。
南面に大きな窓を取って冬の日射を取り込むパッシブ設計の手法は、入ってくる日射が少ない土地では思ったほど効きません。
太陽光発電も、冬の発電量は当てにしにくい。

日射で稼げない分、躯体そのものの断熱と気密に頼る比重が大きくなると考えられます。
太平洋側の記事に書かれている話をそのまま新潟に持ってくると外す、ということです。

なお国土交通省の告示による省エネの地域区分では、新潟市も長岡市も「5地域」で、宇都宮市や水戸市と同じ区分です。
区分は同じでも雪と日照はまるで違う。
ここは頭に置いておいてください。

新潟の家は、実際どれだけエネルギーを使っているのか

次に、新潟の世帯が実際に払っている金額を見ます。

環境省が実施している家庭部門のCO2排出実態統計調査(令和5年度・確報値)によれば、北陸地方の1世帯あたり年間電気消費量は5,300kWhで、全国10地方のなかで最も多くなっています。
全国平均は3,911kWhですから、1.36倍です。
エネルギー全体を熱量に換算した消費量も、北陸は35.30GJで全国平均の27.80GJを大きく上回ります。

内訳を見ると、北陸は灯油の消費が8.20GJと全国平均4.33GJのほぼ2倍です。
暖房が素直に数字として出ています。
地方別の表は環境省の家庭でのエネルギー消費量についてで公開されています。

ただしこの統計の「北陸」には富山・石川・福井も含まれます。
新潟県単独の数字ではありません。

もう少し新潟に寄せた数字も見ます。
総務省統計局の家計調査(二人以上の世帯/2023年〜2025年平均)から新潟市の年間支出を抜き出すと、こうなります。

項目新潟市全国全国順位
電気代157,217円149,965円17位
電気使用量4,770kWh4,823kWh29位
都市ガス代69,818円39,035円5位
灯油代20,891円15,094円9位
灯油使用量185.26L133.07L10位

おもしろいのは電気の使用量です。
新潟市は4,770kWhで、全国平均の4,823kWhをわずかに下回ります。
それなのに電気代は全国より高い。
単価の差です。

一方で灯油は使用量そのものが全国の1.39倍。
新潟の光熱費が高いのは、暖房用の燃料をたくさん使っているからだと読めます。

ただし家計調査は築40年の賃貸も新築の戸建ても全部込みの平均です。
新築の高断熱住宅と直接比べるのは無理があります。

断熱等級6の家の光熱費を、12か月分そのまま並べてみる

そこで実測値です。

新潟市の金子勉建築設計事務所が、自邸の光熱費を3年連続で公開しています。
新潟市内・同一住宅・月別・電気とガス別という条件が揃った公開データは、私が探した限り県内でほかに見つかりませんでした。

住宅の条件を先に整理します。

  • 新潟県新潟市(地域区分5)に建つ木造平屋
  • UA値0.43、断熱等級6(HEAT20のG1相当)
  • 延床面積85.29㎡(25.80坪)
  • 家族構成は夫婦2人、住宅兼事務所でほぼ一日中在宅
  • 冷暖房はエアコン2台による床下冷暖房、換気は第3種(熱交換なし)
  • 給湯とコンロはガス、太陽光発電はなし
  • エアコンは24時間稼働ではなく、朝8時から夜20時まで

2023年7月から2024年6月までの12か月間の実績が、こちらです。

電気使用量電気代ガス代合計
2023年7月65kWh1,613円2,685円4,298円
8月166kWh4,227円2,939円7,166円
9月232kWh6,087円2,605円8,692円
10月89kWh2,900円2,964円5,864円
11月62kWh1,942円3,365円5,307円
12月204kWh6,279円3,231円9,510円
2024年1月448kWh12,850円4,562円17,412円
2月393kWh10,553円4,850円15,403円
3月322kWh8,845円4,581円13,426円
4月198kWh5,744円4,535円10,279円
5月69kWh2,120円3,720円5,840円
6月56kWh1,850円3,697円5,547円
年計2,304kWh65,010円43,734円108,744円

年間の光熱費は108,744円、月平均にすると9,062円です。
数字の詳細は断熱等級6の住宅の光熱費を公開した記事で確認できます。

最初に電卓を叩いたのは冬への集中度でした。
12月から3月までの4か月の電気代は38,527円。
年間65,010円の59.3%がこの4か月に集まっています。
最も安い7月と最も高い1月では、光熱費に約4.05倍の差があります。

高断熱の家でも、新潟の冬にはきちんとお金がかかります。
下がるのは、同じ広さの家を同じように暖めたときの比較の話です。

この数字をそのまま自分の家に当てはめてはいけません

ただし、この実測値には注意点が3つあります。

1つめは世帯と広さです。
夫婦2人、25.80坪の平屋は大きな家ではありません。
上質な住まいを検討している方の延床は、この倍近いこともあります。

2つめは補助が乗っていることです。
この期間は国の電気・ガス価格激変緩和対策事業が実施されており、同事務所の記事によれば2023年9月から2024年5月までは電気1kWhあたり3.5円の値引きが入っています。
この支援は2024年7月請求分以降に打ち切られました。
いま同じ暮らしをすれば、請求額はもう少し上がります。

3つめは電力単価の振れ幅です。
同じ家の平均単価は2021年度30.90円/kWh、2022年度39.42円/kWh、2023年度28.21円/kWhと動いています。
30年後の光熱費を今の単価で計算した資料が当たるのかは、正直あまり信用していません。

「高断熱にすれば安くなる」と言い切れない理由

ここからは、少し都合の悪い話も書きます。

まず、暖房は家庭のエネルギーの一部にすぎません。
環境省の家庭CO2統計で用途別の構成比を見ると、北陸で暖房が占める割合は25%です(環境省自身が参考値と注記している推計値です)。
給湯が25%、照明・家電などが42%。
断熱性能を上げて直接効くのは、この25%の部分ということになります。

次に、断熱への追加投資が何年で回収できるかという試算は、出どころによって答えがまるで違います。
県内の設計事務所や工務店の公開資料を並べると、等級6なら8年ほどで回収できるとするものもあれば、断熱グレードを一段上げた実費と削減額から計算すると60年を超えてしまうものもあります。
比較対象も面積もエネルギー単価も揃っていないので、どちらが正しいとは言えません。

光熱費の削減額だけで断熱への投資を正当化するのは無理がある、というのが私の考えです。
回収年数を根拠に勧められたら、その試算の前提を聞いてみてください。

そして「高断熱にしたのに思ったより高い」というケースも実際にあります。
原因は断熱以外のところにあることが多いです。

  • 給湯器の効率が冬に落ちる。エコキュートは外気温が下がると沸き上げに余計な電力を使う
  • 暖房の使い方が変わる。使う部屋だけだった暮らしが、家じゅう連続暖房に変わる
  • 賃貸から戸建てに移って、暖める面積が2倍以上になる
  • 間取りと暖房計画が噛み合わず、エアコンから遠い部屋に熱が届かない
  • 24時間換気の電力が常時かかる

このうち最後から2つめは、取材した家でも実際にありました。
性能値は足りているのに、2階の寝室だけ朝方に16℃台まで下がる。
原因は熱の配り方でした。

新潟で目安にすべき数字は、国の基準より一段上にあります

では、新潟ではどのあたりを狙えばいいのか。
ここは行政がすでに答えを出しています。

新潟県は「雪国型ZEH」という県独自の推奨性能を定めています。
その内容は、断熱性能をHEAT20のG1以上とすること、気密性能をC値1.0以下とすること、太陽光発電設備は設置可能なら原則導入すること、の3点です。
令和3年度に家庭の省エネ推進協議会で承認されたもので、県の雪国型ZEHの解説ページに明記されています。

注目すべきは、UA値だけでなくC値まで基準に入っている点です。
新潟の冬の風を考えれば、隙間から入る空気を止めないと断熱材は働きません。
県が気密まで指定しているのは、そういうことだと受け取っています。

国の断熱等性能等級と民間団体HEAT20の水準を、新潟市が該当する5地域の値で並べます。

水準UA値(5地域)位置づけ
断熱等級40.87以下省エネ基準。2025年4月から新築で適合義務化
断熱等級50.60以下ZEH水準
HEAT20 G10.48雪国型ZEHの推奨ライン
断熱等級60.46以下冒頭の実測住宅がここ
HEAT20 G20.34
HEAT20 G30.23
断熱等級70.26以下現行の最上位等級

等級のUA値は国土交通省が公表している住宅性能表示制度の資料に基づきます。
HEAT20の水準はHEAT20が公表している性能水準のページで確認できます。

ここで大事な但し書きがあります。
HEAT20は民間の研究団体が定めた自主基準で、法令上の義務ではありません。
さらにHEAT20自身が、示しているUA値は地域区分ごとの代表都市で想定シナリオを実現するための値であり、同じ区分内でも建設地によって外気温や日射量が違うため地域補正が必要だと説明しています。

5地域の代表都市は宇都宮です。
宇都宮向けの数字を、日照がまるで違う新潟にそのまま当てはめて同じ室温になるとは言えません。
設計者に地域補正まで踏まえて計算してもらうべきところです。

見学のときに聞いておきたいこと

モデルハウスや完成見学会で確認しておくとよい項目を挙げます。
担当者が即答できるかどうかで、会社の姿勢がわかります。

  • そのプランのUA値の実数。グレード名ではなく数字で
  • C値を全棟で実測しているか。カタログ値なのか測定値なのか
  • 換気は第1種か第3種か。熱交換の有無
  • 暖房の運転前提。24時間連続なのか、時間を区切る想定なのか
  • 光熱費シミュレーションの前提条件。世帯人数、延床、電力単価、算出した年

私自身は、県内の物件をまとめて眺めたいときに新潟のハイエンドな住まいを紹介しているブログをよく開いています。
高級賃貸から注文住宅のモデルハウスまで、上質な住まいの実例が並んでいるので、見学に行く前のイメージづくりに役立ちます。

まとめ

新潟の冬に高断熱の家の光熱費は下がるのか。
実測値を並べたうえでの答えは、下がります。
ただし請求書がゼロに近づくわけではありません。

新潟市の断熱等級6・25.8坪の平屋で、年間の電気とガスの合計は108,744円、月平均9,062円。
年間電気代の59.3%は12月から3月に集中していました。
高断熱の家でも、新潟の冬は冬として現れます。

しかもこの数字は、夫婦2人・25.8坪・政府の補助込みという条件のうえに乗っています。
広い家を建てるなら、素直に増えます。

だから私は、断熱を光熱費の投資として考えないほうがいいと思っています。
冬の朝、廊下も脱衣所も同じ温度で、家じゅうどこでも同じ服で過ごせる。
その快適さにいくら払うかという話にしたほうが、判断を間違えません。

そのうえで新潟なら、雪国型ZEHが示すHEAT20のG1以上とC値1.0以下を最低ラインに置いてください。
そこから上をどこまで狙うかは、予算と、その家に何年住むかで決まります。

最終更新日 2026年8月27日 by landru

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